カトマンズのお嬢さんに逆ナンパされる≪九月九日≫ -爾-目を覚ましたのが午後五時過ぎ。 今日も3:00~4:30頃まで、ものすごいスコールがあったのだと言 う。 俺は爆睡中、夢の中。 埃っぽい街がこのスコールできれいに洗われるのだから、悪い事ばか りではない。 暫くベッドの上でボンヤリした後、散歩がてらに外へ出る事にした。 ”New Road,Gang’a Path"通りを通って、Chikanmugal通りに入 り、レストラン・ドラゴンへ向かう。 レストランに入ると、タバコ の煙と人息でムンムンする中を横切り、空いているテーブルに座った。 早速、少年のウエイターが注文を取りに来た。 少年「何にしますか?」 俺 「ワン・ビア!」 少年「OK、ワン・ビア!」 少年の持ってきたビールを一飲みする。 久しぶりのビール は、なんとも言えず美味いものだ。 少年は俺のテーブルに座ると・・・人懐っこい顔で。 少年「タバコはあるかい?」 と、タバコを強請ってきた。 タバコを一本取り出して火をつけてやる。 まだ未成年なのだが、当然のようにタバコを吸う。 俺 「名前は?」 少年「サンカラ!」 日本人もチラホラいて、気の休まるレストランだ。 この日の夕食は21Rs(460円)。 * 食事のたびに通る”Ganga Path~NewRoad”は夕方いつも人通 りが激しくなる。 走る車は日本と同じ左側通行。 イギリスの影響があるのかも知 れない。 一つ驚かされる事は、駐車の仕方である。 なんと道の真ん中に駐車しているではないか。 駐車している車の列が中央分離帯という訳だ。 なかなか面白い光景だ。 娘さん「こんにちわ!」 突然の声に振り向くと、カトマンズの若い娘さんだった。 娘さん「日本の人ですよね。私、大学で日本語の勉強を しています。」 ポカーンとしている俺を尻目にニッコリと笑う。 良く見ると、顔はインド風だが、なかなかの美人だ。 娘さん「これから、食事ですか?」 俺 「いえ、いま食事は済ませて来たところです よ。」 娘さん「今暇ですか?お茶でもいかがですか?」 俺 「良いですよ。」 今通って来た道を逆戻りする。 娘さんは、両手で二、三冊の本を胸に抱いている。 首には流行りなんだろうか、スカーフを巻いて、セーターにスカート 姿であった。 どこか良いとこのお嬢さんなんだろうという事はすぐにわかった。 広場近くのレストランに入る。 客の皆が振り返る。 お嬢さん「何か飲みます?」 俺 「ビールでも飲みますか。」 ウエイターである少年が来る。 彼女が注文をとる。 お嬢さん「ワン・ビア&ワン・チャエ!」 注文を済ませると、俺のほうを向き直って笑顔をつくって見せた。 お嬢さん「私、KRISHNA(クリシュナ)と言います。 あなたは?」 俺 「俺?・・・ヒガシカワ!」 そう言いながら、ローマ字で書いて見せた。 彼女は肩と眉を動かして”ヒガシカワ”と発音を繰り返す。 お嬢さん「何処から来ましたか?」 俺 「東京!」 お嬢さん「東京ですか・・・・・いつか行ってみた いですね。」 俺 「あなたは学生ですか?」 お嬢さん「ハイ!学生です。」 ・・・・・・・・・・。 十五分間の楽しいデートが突然やってきたのにはビックリ。 彼女に僕の宿の住所を手渡し、軽く握手をしてこの場は別れた。 もう外は暗くなっていた。 後で気がついたことだが、俺の安宿の住所を渡すのではなかったと後 悔した。 だって、すごいボロ宿だから、彼女が見たらひいてしまうと思ったのだ がもうときすでに遅し。 部屋に戻り、フィラメントの見える、裸電球を頼りにこれを書いてい る。 外は本当に静かだ。 ちょっとした街の物音もはっきりと聞き取れる。 カトマンズと言う街。 金持ちや貧しい人たちが、何のわだかまりもなく、溶け合って生きて いる様にも見える。 貧しさが気にならない、そんな不思議な街のような気がする。 我々貧しい旅行者にとって、気の休まる優しい街、それがカトマンズ だ。 今夜も寒い。 これから冷たい水で洗濯して、冷たいシャワーを浴びる。 まるで修行僧のようだ。 そんな冷たさをガマンしなければならない・・・・・そんな旅を俺は 好いている。 眠りにつく前に、日本に宛てた手紙をしたためています。 夜に入って、ずっと雨が降り続いている。 |